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「妄想特急」 館長のブログ163

更新日:2023年4月8日

近畿日本鉄道の観光特急「しまかぜ」が運行を開始してはや十年になる。名古屋、大阪難波、京都から午前中の便が各1本ずつ伊勢志摩に向けて快走する。爽快な青と白に塗り分けられたその姿は地元民にとってもすでに日常の風景となった。けれども伊勢志摩から発車する上りの便は午後、それも遅い時間に設定されていて、これは観光客の利便を優先すれば当然のことだが、地元住民にとっては乗車のハードルは高い。一昨年走り出した、名古屋と大阪難波を結ぶ「ひのとり」も不定期列車を除けば伊勢方面には入って来ないし、大阪阿部野橋から吉野に向かう「青のシンフォニー」も、大阪から奈良と京都を巡る「あをによし」も伊勢志摩の住人は遠くから眺めるだけだ。

この際、一泊二日でこれらの観光特急にぜんぶ乗ってみることにした。手許には『近鉄時刻表2023年度版』がある。実現可能か検証してみよう。

1日目。賢島を16時00分に発車する難波行き「しまかぜ」に乗車する。そのためには自宅のある伊勢市から14時55分発の特急で始発の賢島まで行かなければならない。15時42分に到着し、向かいのホームに停車している「しまかぜ」に乗車。先頭6号車展望車両に席を取ろう。定刻に発車。カーブの多い志摩線をゆっくりと北上、真珠島の姿を右手に見て鳥羽を過ぎる。見慣れた宮川の景色が高い窓からは違う風景に映る。先頭の景色にちょっと倦んだらカフェ車両に移動してクラフトビールを味わう。おつまみ代りに、はまぐりのシーフードピラフ。暮れなずむ大和路を快走して難波到着は18時21分。適当なホテルを探し、一夜を過ごすことにする。

2日目は難波発9時15分の「あをによし」第1便に乗車。古代紫に金色の帯の装いが古都を結ぶ特急にふさわしい。包み込まれるような若草色の座席は窓に向かっていて、流れる景色をスクリーンのように楽しめる。ちょうど朝のコーヒータイム。駅のホームからこちらに向かう視線にいわれのない優越感。生駒トンネルを抜けて西大寺から奈良に着くとここで方向を変え、西大寺に戻って京都線を北上、10時33分に京都に到着する。

さて次は吉野から大阪阿部野橋に向かう「青のシンフォニー」だが、便数が少ない。吉野発大阪阿部野橋行きの最終である第4便は16時04分発で、間に合うように吉野まで行こうと思う。ところが京都線橿原線と吉野線では線路幅が異なるので直通列車はなく、橿原神宮前で乗り換え。第4便に間に合う神宮前発吉野行き特急は14時46分の「青のシンフォニー」第3便で、吉野到着は15時28分。これに乗るには京都13時10分発の特急を利用するしかないが、京都での2時間半は観光には微妙な時間だな。しかも橿原神宮前吉野間は往復ともに 「青のシンフォニー」になってしまう。ここは京都観光を見送って10時40分の急行に乗車橿原神宮前で普通に乗り換えると吉野に12時55分に着くから、午後の3時間を花見と洒落よう。吉野駅前からケーブルで参道に上がり、遅い昼は茶店で柿の葉寿司を食うことにする。はむはむ。蔵王堂で特別ご開帳中の秘仏本尊蔵王権現を拝み、今を盛りと咲き誇る、中の千本桜を堪能して駅に戻る。

それで16時04分発の「青のシンフォニー」第4便に乗車。2号車のラウンジで、アテンダントさんお勧めの吉野の地酒を試していると、ほろ酔い加減の17時22分大阪阿部野橋着。地下鉄で難波まで移動して18時00分発「ひのとり」に乗車する。燃えるようなメタリッレッドの「ひのとり」は今まで乗った列車とは性格が違い、大阪名古屋を結ぶ基幹特急で便数も多く、観光を意識していない。車内設備は自販機だけなので、夕食はあべのハルカスの地下で弁当を仕込んでおこう。さすがに少々疲れが出てきたか。先頭のプレミアムシートに体を埋めているといつの間にか夢心地。名古屋到着は20時08分。20時45分発の五十鈴川行き特急に乗車して、伊勢市到着は22時06分。楽しい二日間が終わった。

「しまかぜ」大阪便は火曜日運休、「あをによし」は木曜運休、「青のシンフォニー」が水曜運休なので催行可能日は日月、月火、木金、金土、土日だ。妄想特急はお金が要らないが、実際の交通費は21,320円(4月1日料金改定後)ということになった。加えて宿泊と食事。さあ、どうする?

2023年4月7日

松月清郎

写真①近鉄 観光特急「しまかぜ」

写真②近鉄 観光特急「あをによし」

写真③近鉄 観光特急「青のシンフォニー」

写真④近鉄 特急「ひのとり」

写真提供:近畿日本鉄道 株式会社


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