top of page
検索

「真珠コレクションの展示」館長のブログ197

  • 2 日前
  • 読了時間: 4分

 真珠コレクションというと、真珠を用いたジュエリーのコレクションと思われがちだ。今回の展示でご紹介するのはそれではなくて、貝や鉱物と同様、真珠そのものの珍しさや面白さを楽しんで頂くためのコレクション。店頭に並ぶ装身具としては見かけない類の真珠を揃えた。

 貝の中から現れた珠を手にして眺める。そのこと自体でも軽い驚きであるが、それが丸く整った珠であれば、人は何となく良いことがあるような気分にさせられる。ましてそれが大きく、輝きを持っていればその嬉しさは如何ばかりだろう。それを瑞兆として、身に付け、お守りにする。装身具はそうした不思議の力をわが物にすることから始まったというのが、大方の一致した見方だ。

 鉱物や貝などのコレクションは理科系博物館の常設や企画展で見ることができるし、個人でも相当な品を所蔵するコレクターがいる。真珠の収集家もいるにちがいないが、なぜか、あまり表にでてこない。フィクションではあるがジュール・ヴェルヌの小説『海底二万マイル』にはネモ艇長の真珠コレクションが次のように紹介されている「紅海のタイラギからとったバラ色の真珠、紅色あわびの緑色の真珠、そのほか黄色い真珠や黒い真珠さまざまな軟体動物や北海のイガイからとれためずらしいもの、もっとも珍しい真珠貝からとった大変高価ないくつもの標本など、なかにはハトの卵より大きいのがあった」(江口清訳)。以下、詳しくは原典にあたるか、拙書『図書室で真珠採り』をご参照下さい。

 ハトの卵は長径が4センチで短径が3センチほどだから、当館が所有する直径4センチのシロチョウガイ真珠「ビッグパール」はネモ艇長のコレクションの品に匹敵する。大きいものは他に11.8mmのアコヤガイ真珠、16mmのシロチョウガイ真珠、19mmのクロチョウガイ真珠がある。これらはいずれも養殖で、大きさだけでなく輝きや色調など真珠としての美しさを兼ね備えた一品といえよう。異形のアワビ真珠とアメリカの淡水二枚貝から出た天然真珠はどちらも美しい輝きを持つ唯一無二というべき品。独自のオレンジ色で真珠の仲間に加えられているナガイトマキボラという巻貝から出た天然真珠も21mmで迫力十分。同じく大型の巻貝トウカムリから出た17mmの珠と並べて展示した。

 人が真珠に出会う偶然の機会は食事中であることが多い。今回はアワビ、カキ、シャコガイにハマグリ、アサリ、ホタテ、アカガイ、タイラギなどから出た珠をそれぞれの貝殻とともに展示してみた。真珠は貝殻の内面と同一であることがおわかりいただけると思う。ここでは炭酸カルシウム結晶の層状構造(真珠層構造)から成り、光沢を有するものを真珠といい、そうでないものを珠と呼んで区別している。

 アサリなどは貝そのものが小さく、体内に形成される珠も小さいので、気付かないことも多いだろう。ホタテガイのヒモ(外套膜)の中には小さい珠が入っている可能性があるので、確かめてみると良い。アコヤガイの真珠を探そうと思えば、冬の浜揚げシーズンに地元のスーパーや魚屋に並ぶ貝柱を狙うのがお勧め。貝柱の近くには小さな真珠が形成されることがある。アコヤガイの貝柱のぬめりを取るのに水洗いする時は桶の底に注意しよう。真珠が光っているかもしれない。ただし大方は1ミリにも満たない大きさだが。

 今回の展示ではいろいろな形状の仏像真珠を並べてみた。中国の湖沼に生息する貝殻内面に輝きのある二枚貝を使い、貝殻と外套膜の間に仏像などの形をした金属を挿入して、その上に真珠層を形成させたもので、12世紀初期の文献(『文昌雑録』)に製法が記載されている。挿入するものの形がそのまま輝きを持つので見た目に面白く、お土産として近年まで売られていたようだ。1970年代の文化大革命の指導者毛沢東の横画を浮かび上がらせた貝殻があるので、その当時までは作られていたことがわかるが、現在ではどうだろうか。

 他には昭和初期に養殖場の真珠を集めて作った標本箱、同じ頃に養殖試験を続けていた御木本真珠養殖場の技師が残した標本瓶を初めて展示公開する。

 真珠にはジュエリーとして身を飾る前に、そのものを鑑賞するという楽しみがあることをしみじみと実感できるだろう。国内で真珠標本のコレクションを見ることのできる博物館は他にはないと思う。どうぞお立ちより下さい。

2026年8月4日

松月清郎


写真①ギネス認定 世界最大の養殖真珠

写真②怪しい輝きのアワビ真珠

写真③無数の真珠を抱えたアコヤガイ

写真④鮮やかなオレンジ色の真珠

写真⑤仏像真珠の数々

写真①ギネス認定 世界最大の養殖真珠
写真①ギネス認定 世界最大の養殖真珠

写真②怪しい輝きのアワビ真珠
写真②怪しい輝きのアワビ真珠

写真③無数の真珠を抱えたアコヤガイ
写真③無数の真珠を抱えたアコヤガイ

写真④鮮やかなオレンジ色の真珠
写真④鮮やかなオレンジ色の真珠

写真⑤仏像真珠の数々
写真⑤仏像真珠の数々


 
 
 

最新記事

すべて表示
「御木本幸吉の商売戦略」館長のブログ196

乙竹岩造の『伝記御木本幸吉』から原文のまま引用する。 「僕は養殖真珠の方法については、随分苦労したが、しかし、その売り方に対する苦心もこれに劣らない。実際に商売をした者でなければ、その辺の消息は共に談ぜられないが、需要と供給のつり合いを睨んで価格を維持して行くのは、かなり難しいことなのだ。僕は養殖真珠を初めて売り出した時から、その商略についていろいろ考えた。そして採取した真珠の十分の二以上は市場に

 
 
 
「海女さんは今日も潜る」館長のブログ195

昭和46年の秋も深まる頃に発行された真珠島の社内報に「建設すすむ海女温水プール」という記事があった。冬の間の海での海女作業は行う方も見る方も辛いだろうから、館内に温水プールを作り、暖かい部屋で作業を見ていただこう、海女さんの健康管理上からも望ましい、そういう設備が近々完成する、という内容だ。  既存の映写室の山側を削って室内を拡張、山頂に新しく設置した100トンの貯水槽から給水して「中部電力ご自慢

 
 
 
「海女さんの小説を読んでみた」館長のブログ194

海女スタンドの改修工事が終了して、海女作業は元の場所で再開されることになった。期間中、ご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。島の海女さんに聞くと、臨時の作業場所となった海女桟橋寄りの海は南側なので、海水温が少し高くて助かったとのこと。3月は木曽三川からの雪解け水が伊勢湾を南下するので海が冷えて、一年で一番厳しい時期なのだそうだ。風はまだ冷たいがもう少しの辛抱で、また春が巡ってくる。  今の海

 
 
 

コメント


bottom of page