「殻を持つ生きものたち」館長のブログ198
この夏も館で収蔵している貝標本の整理作業を行った。博物館設立以前に島内にあった貝の展示室の物件で、大正後期から昭和にかけて御木本真珠養殖場に在籍した田中正男の収集になる2000点ほどのコレクションだ。懇意にしている貝の研究者が毎年夏休みに来館、整理と調査を引き受けてくれている。貝に専門家がいない当館にとっては何ともありがたい。
いうまでもないが貝標本とは貝殻のことで、生きものとしての貝はその中に入っている。貝のからだの一番外側には外套膜という、文字通りオーバーコートのような組織があって、その働きで自分の貝殻を作る。貝殻は貝柱でからだとつながっているので、外骨格といえる。そうして貝は外敵から我が身を守り、体内の環境調節をして生活している。
貝殻は水に溶けたカルシウム(カルシウムイオン)と炭酸ガスで形成した炭酸カルシウムを主成分として、貝それぞれのデザインで作られる。十万種にも及ぶとされる貝類は独自の貝殻形成プランとメカニズムを持っている。
このような炭酸カルシウムの外骨格をもつ生きものとしてサンゴが挙げられる。サンゴの正体はクラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物のサンゴ虫(ポリプ)。白いサンゴ礁は無数のサンゴ虫が何世代にもわたって炭酸カルシウムを使って作り上げた彼らの集合住宅といえる。
フジツボも同様に外骨格を持つ生きものだ。こちらはエビやカニと同じ節足動物で、孵化したばかりの幼生は浮遊しているが、成体は岩や船底、フロートなどに固着して生活する。外骨格の形状は火山のようで、火口に当たる部分に蓋がある。本体はその中に潜んでいる。水中ではこの蓋を開き、複数(6対12本)の蔓脚(まんきゃく)という脚を出して、水をかき寄せるような動きを見せる。こうやってプランクトンを絡めとって食べている。本体はエビが脚を上にして逆立ちしたような形で中におさまって一生を過ごす。からだには外套膜と呼ばれる組織があって炭酸カルシウムの骨格を形成するので、イメージとしては貝に近い。
フジツボは養殖しているアコヤガイにもよく固着する。浮遊幼生がアコヤガイの殻に定着してそこで外骨格を形成、フジツボの姿になって2~3年生きるらしい。アコヤガイの殻を生涯の地と決めたフジツボだが、養殖場で定期的に行われる貝掃除で除去されるので、あまり賢い選択とは言えない。
そのフジツボ同様にアコヤガイに固着しているのがカンザシゴカイの仲間で、こちらは環形動物。白くて細いチューブが貝殻の上に不規則な曲線を描いている。これはカンザシゴカイの棲管(せいかん)という住まい。水中でゴカイは頭から鰓冠(さいかん)と呼ばれる器官を出し、プランクトンや有機物を捕食する。棲管はゴカイ自身が炭酸カルシウムや有機物を分泌して作り上げたものだが、ゴカイ本体とはつながっていない
こうしてみると貝類をはじめとして炭酸カルシウムを生活に利用している生きものが多数いることがわかる。
生きものが水中のカルシウムと二酸化炭素を使って炭酸カルシウムを形成するプロセスを生体鉱物化(バイオミネラリゼーション)と呼ぶ。この時にサンゴや貝類が使用する炭素を「ホワイトカーボン」、特にアコヤガイなど真珠貝が真珠形成に用いる炭素を「パールカーボン」と呼ぶことを解説するパネル展示を博物館一階のコーナーで開始した。
貝やサンゴが形成した炭酸カルシウムは海底に堆積し、長い年月をかけて石灰岩となる。それが地殻変動で隆起し、世界各地に様々な景観を作り出している。遥かな歴史のなかで生物が作り上げてきた炭素の貯蔵庫といえるだろう。
植物が光合成で利用する「グリーンカーボン」、水中の藻類による「ブルーカーボン」と併せて、自然界の炭素固定のシステムに関心を向けて頂くきっかけになればと思う。
2026年9月10日
松月清郎
出典:一般社団法人 水圏統合カーボン固定推進機構(AICaS)
写真① 美しいアコヤガイの貝殻
写真② サンゴの骨格標本(キクメイシの仲間)
写真③ フジツボの付着したアコヤガイ
写真④ カサネカンザシの付着したアコヤガイ
写真⑤ 展示のようす





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