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「海女さんの小説を読んでみた」館長のブログ194

  • 1 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:9 時間前

海女スタンドの改修工事が終了して、海女作業は元の場所で再開されることになった。期間中、ご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。島の海女さんに聞くと、臨時の作業場所となった海女桟橋寄りの海は南側なので、海水温が少し高くて助かったとのこと。3月は木曽三川からの雪解け水が伊勢湾を南下するので海が冷えて、一年で一番厳しい時期なのだそうだ。風はまだ冷たいがもう少しの辛抱で、また春が巡ってくる。

 今の海女作業はアナウンスのみの解説で、他に文字情報はない。昭和50年代までは島内に「海女資料館」という施設があって、志摩の海女について基本的な事柄をパネルで展示していた。海女を取り上げた研究書や写真集は今まで結構出版されていて、博物館2階の図書コーナーに並んでいるから、文字情報の必要な方はそちらを利用いただくようにご案内している。古いところで地元の民俗学者岩田準一の『志摩の海女』、昨年物故された田邉悟さんの著作や、近年では三重大学・塚本明教授の『鳥羽・志摩の海女』(吉川弘文館 2019年)を参照される方が多い。

 文芸の分野でも海女を取り上げた作品があって、すぐに思い浮かぶのは三島由紀夫の『潮騒』(新潮社 昭和29年)だろうか。鳥羽沖の神島と思われる島を舞台に、若い海女と船乗りを目指す若者とのロマンスで、これは別格の知名度。他にどんな作品があるのか。探してみた。

大田洋子「海女」(短編集『海女』 昭和15年 中央公論社)

北条秀司「海女騒ぎ」(北条秀司戯曲選集Ⅲ『霧の音』 昭和37年 青蛙房)

山田克郎「青い真珠」(『青い真珠』 昭和26年 新小説社)

岸田國士「道遠からんーまたは海の女王はかうして選ばれた」 (『道遠からん』 創元社 昭和25年)

近藤啓太郎「海女舟」 (『海女舟』 文芸春秋新社 昭和31年)

木本昭二「海女と百万円」 (『海女と百万円』 桃源社 昭和35年)

坂東眞砂子『桃色浄土』 講談社 平成6年

熊谷達也「磯笛の島」 (『懐郷』 新潮社 平成17年)

森下裕実「おんなの島」 (『大阪ハムレット1』 双葉社 平成18年)

中上紀「海女の櫛」 (『熊野物語』 平凡社 平成21年)

谷村志穂『いそぶえ』 PHP研究所 平成24年

村田喜代子『ゆうじょこう』 新潮社 平成25年

乙川優三郎「イン・ザ・ムーンライト」 (『トワイライト・シャッフル』 新潮社 平成26年)

藤本ひとみ『青い真珠は知っている』 講談社 平成27年

 これらの内で、平成に刊行された作品は図書館で読めるだろう。谷村志穂の『いそぶえ』は昭和20年~40年頃を時代背景に、志摩の安乗(あのり)に生まれたヒロインが「大海女」と呼ばれた祖母のもとで成長する。海女の仲間入りをするが、高校への通学で海女以外のコミュニティを経験、学校の先生、級友、若い神主たちとの交際を通じて成長してゆく物語。高校生活の描写は昭和30年代のジュニア小説を思わせ、回顧的気分に溢れている。やがて祖母への反発と別れ、恋心を抱いた神主を追っての舳倉島行き、友人との軋轢を経て、結婚、出産、離婚のあと、シングルマザーとなって生きる道を選ぶ場面で終わる。500ページに及ぶ長編だが、地元民にとっては馴染みのある固有名詞や方言が出てくるので、読みやすいはず。

 昭和の作品群は古書店のサイトで探すしかない。山田克郎の「青い真珠」は昭和24年に「海の廃園」として発表、直木賞を受賞し、翌年、他の短編とともに『海の廃園』として宝文館から出版された。その後、東宝が本作を元に本多猪四郎の脚本・監督で「青い真珠」のタイトルで映画化する。公開に合わせて原作「海の廃園」は「青い真珠」と改題、新小説社の文庫の一冊として『青い真珠』の表題で刊行された。ありがちな話だが、一読したかぎり、原題の「海の廃園」のほうが内容にふさわしい。東宝宣伝部は「海の廃園」のタイトルでは観客の動員は見込めない、ここは真珠の力を借りて、と考えたのだろう。山田の原作には真珠貝にまつわる伝承が出てくるけれども、それはエピソード以上ではない。心に痛手を負ったヒロインの悲しみを冬の海底の情景に投影した「海の廃園」は良い表題だと思うのだが。

 大田洋子「海女」は都会から帰った女性が再び海女として働く姿を描いた短編。東京の都会生活と千葉の海村での暮らし、知的階級と労働者、工場と自然の海といったいくつかの対立軸を設けて、海女の仕事の特質を明らかにする。日中戦争の戦火が拡大、自然を相手に身体一つでただひたすら働く海女の姿まで「銃後の守り」にしなければならない時代があった。

北条秀司「海女騒ぎ」と岸田國士「道遠からん」はどちらも戯曲。大阪生まれの劇作家・北条秀司は文化映画「舳倉島」に触発され、輪島で海女の生活を取材して「海女」を書き上げた。昭和16年明治座で初演。戦後「海女騒ぎ」と改題してラジオドラマ化、舞台でも上演された。島の暮らしを守る働き手の海女たちが、働かない男たちに対して男女同権を求めてストライキに入る。一方の海士組合も激しく抵抗、騒動に発展する。島を二分する争いの結果、疲れた双方は和解し、男女ともに働ける社会への期待を込めて大団円で幕。

 岸田國士は東京生まれの劇作家。「ある海岸地方へ旅行をした時、その地方の町で観光事業の一つの催しとして、海女の海中作業をコンクールの形式で見せるという計画をきかされ、これはどんなものかと考えさせられた」ことから創作意欲が刺激されたという。コンクールに賛成する意見と反対意見が対立、応酬となる場面が続く。反対意見の代表的なものは「海女は純然たる生産的職業であって、スポーツや演芸のように観覧物であってはならない」というもの。それに対して、人が見ていてもいなくても変わったことをするわけではないという反論が出てくるが、論破する迫力に乏しい。それぞれ発言者の立場や力関係で、意見が通ったり通らなかったりするのは、世の習い。

 森下裕美『大阪ハムレット』に収められた「おんなの島」は鳥羽の答志島と真珠島が舞台となっている。真珠島の新人海女さんとして働く答志島の伊藤波江(19歳)と、夏休みに大阪から遊びにきた、女装が好きな小学生ヒロ君の物語。関西の人にとって鳥羽は夏休みの記憶と結びついている場所なのだろうか。

2026年3月8日

松月清郎


写真

①改装なった海女スタンド

②レファレンスの図書コーナー  海女さんに関する本をご自由に

③こちらは奥の書架 ご希望があればご覧いただけます


①改装なった海女スタンド
①改装なった海女スタンド

②リファレンスの図書コーナー 海女さんに関する本をご自由に
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③こちらは奥の書架 ご希望があればご覧いただけます
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