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「ライブラリー」館長のブログ184

ライブラリー開設

 このたび、博物館内に新しくライブラリーが設置されました。宝飾に関わる和洋の書物約5000冊を集めた図書室で、その整理作業に一区切りついたところです。博物館資料と図書は、いわば車の両輪で、豊富な文献資料は展示物の真価を見極めるのに大変心強い支えとなります。また、書物自体に展示する価値のあるものが多く、今後の企画に生かして行きたいと考えています。

 ライブラリーの来歴をお話しておきましょう。1993年、御木本真珠発明100周年事業の一環として、株式会社ミキモトが宝石関係書籍3000冊を集めたライブラリーを東京東上野のミキモトアネックス1階に開設しました。 当時のミキモト常務で、今も宝飾評論家として活躍する愛書家の山口遼さんが独自のネットワークを駆使してイギリス、アメリカから集めた図書が大半を占めます。当時のパンフレットには「このライブラリーはひとりでも多くの方々が、日頃から広く宝飾品、宝飾の文化や知識、歴史に親しんでいただける場を設けるという目的を持つ」と記されていて、一般の利用者を歓迎、週末を除く毎日開館していたようです。

 その後、収集を続けて5000冊を越えましたが、本社機能の移転に伴って、一般公開を制限。 2024年、ミキモト本社ビル新築に伴い、神戸支店を経て鳥羽へ。ミキモト真珠島の真珠博物館に移管されることになりました。

 真珠博物館が収集してきた既存の図書と合わせれば、宝石、真珠、装身具を様々な角度から捉えた約10000冊。重複はありますが、宝飾関係図書のコレクションとしては有数といえるでしょう。 1500年代、1600年代に刊行された稀覯本約30冊や、20世紀初頭の重厚な豪華本など、背表紙が並ぶ姿だけでも一見の価値があると思います。

鳥羽の生んだ宝石学者・久米武夫

 このミキモトライブラリーの中核には先人の収集した書物があります。集めたのは久米武夫(明治20:1887年~昭和33:1958年)で、御木本幸吉の義弟にあたります。うめ夫人の弟ですね。鳥羽に生まれた久米武夫は13歳で上京し、御木本真珠店に勤務します。17歳の時、博覧会出店の仕事で渡米、それを皮切りに海外に出て行きます。東京で真珠店勤務の傍ら、語学学校に通い、外国語をマスターした武夫はニューヨークで勤務に就きますが、そこでも向学心を発揮して、コロンビア大学に通い、鉱物学を学びました。日本の宝石学者の草分けとされるひとりで、著書に『宝石学』など多数があります。

 その久米が自身の研究のために収集した図書類を久米文庫と呼んでいます。おそらくニューヨーク勤務時代に集めたものが大半でしょう。表紙裏に収書票が貼られて、番号が記されており、500番台まで確認できます。1900年代初期の宝石学洋書多数が含まれて、明治人の旺盛な知識欲がわかります。

ライブラリーの整備と今後の活用

 蔵書リストは引き継ぎましたが、記入されていない項目などもあり、貴重本についてすべて目を通し、おおよその内容を把握する作業を行いました。使われた言語は英語、フランス語、ドイツ語からイタリア語、ロシア語、ラテン語まであります。以前なら辞書と首っ引きだったでしょうが、スマホの翻訳機能を活用し、それに宝飾図書の百科事典(Sinkankas ‘Gemology’)の記事を参照すれば、短時間で何が書かれているか概要を知る事ができます。

 内容については、精査したわけではありませんが、今日の装身具あるいは真珠の研究上で大発見というような情報はそれほど多くないようです。先行文献として、後世の書物に引用される記事も多いので、考えてみれば当然かもしれません。けれどもデザイン図版などの挿絵はそのまま展示できそうな水準で、これらはいずれ活用したいところです。 図書自体も相当年代を重ねて、傷みのあるものも散見し、修復と保存について考えなければならないようです。

 現時点で一般公開の目処は立っていませんが、まずリストをしかるべき図書館と共同利用することはできないか、模索している最中です。

手始めに、久米武夫とその文庫だけでも小さな展示として取り上げることを考えています。この春からの企画として、改めてご紹介するつもりです。お楽しみに。

                                   松月清郎                                  2025年1月29日

 

写真

    ①ライブラリーの一角 一般書籍を配架

    ②稀覯本はガラスケース内に

    ③厚さ15センチ 一冊6キロの『J.P.モルガン収集ジュエリーカタログ』

    ④左3冊は1862年ロンドン万博のカタログ

    ⑤図版にカステラーニのジュエリー


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