真珠小説の収集の果て、今まで無視していた漫画にまで手を出してしまった。まずは昭和30年代に貸本漫画や「おもしろ漫画文庫」に作品を残した籠島良弘の時代漫画からご紹介しよう。日昭館漫画シリーズ4として刊行された『神変真珠の秘宝』(昭和31年)だ。
殿様は城下の貧しい人々を救うため「先祖が残した真珠玉」の探索を白井道場の白井正之介に命じた。その真珠には「金銀財宝のありかが書かれている」という。真珠に財宝のありかが書かれているとはどういうことなのか。米粒に写経か。ちょっと何いっているのか分からないままに読み進めると、十年前、当時の家老石沢忠之進が奥地を踏査し、光る山を目撃、そこから流れ出る川の中で何やら光るものを拾い上げた。周囲の状況からあの光る山にはきっと財宝が隠されているに違いないと睨んだ石沢家老、他日を期して発見場所を記録し、殿様に報告、地図を秘匿する。しかし忠之進は何者かに殺害され、その遺児が本作の主人公千代丸である。
一方、財宝を狙う悪家老の大原黒兵(ママ)は黒井道場の黒井半五郎を使って千代丸を襲い、「真珠玉の秘密」を聞き出そうとするが、果たせず強奪にエスカレート。千代丸の叔父が預かっていた地図は黒井一味の手で盗まれ、妹の百合枝も拉致されてしまった。悪家老の前に置かれたのは巻物だ。いつのまにか「財宝のありかが書かれている真珠」が「財宝のありかを書き記した巻物」に変わっているので幼い読者は混乱したことだろう。訊かれた親だって困ってしまう。
このあと白井道場の白井正之介扮する白頭巾が登場、千代丸と百合枝を救い出す活劇と父親の仇討を果たす場面が続き、無事、悪の一味から取り戻した巻物を手に、千代丸ら若者が秘宝捜しの旅に出る場面で終わっている。『神変真珠の秘宝』という表題は国枝史郎か角田喜久雄の伝奇小説を思わせるが、児童向け漫画にしてもあまりに荒唐無稽。各所で辻褄が合わず、ページを行ったり来たりしながら読んだ。神変とは人智で計り知れない不思議な変化のことで、真珠が巻物に変わったのを神変といったのか、籠島先生は。一方で真珠の二文字で読者の目を引こうという編集側の思惑も透けて見え、時代相を考える上で、かろうじて有効な物件といえる。
もう一作、91歳の現在もなお創作に意欲を燃やす漫画家わたなべまさこ先生が昭和33年から35年の間、雑誌『少女ブック』に連載した長編漫画『みどりの真珠』を読んでみよう。木曜島、香港、ベトナム、カンボジアを舞台に「虹の真珠」を巡って繰り広げられる冒険譚だ。主人公の少女青木弘子の父親は三年前にオーストラリアの木曜島に真珠を採りにいった帰り、香港で行方不明になった。
「あらし丸」という船で父親捜しの旅に出た弘子は航海の途中でさまざまな出来事に遭遇する。父親は秘蔵の「みどりの真珠」を悪人に奪われ、さらに「虹の真珠」を採取するように迫られる。しかし、その真珠を採れば「この地球上の真珠はすべて育たなくなってしまう」ので、真珠採取業の仲間を守るために頑なに拒んでいる。10月号付録では悪人に監禁された父親の脱出と、その後を追う弘子がすれ違う。父親の乗った「アンダマン号」を追って出航する「あらし丸」の船上から父を呼ぶ弘子だった。原作は作詞家としても著名な川内康範。作画に優れたわたなべまさことの組み合わせなので人気の連載だったと想像される。表紙裏のページに『みどりの真珠』はニッポン放送でラジオドラマとして放送されたとあるが、全国ネットだったかどうか。古本屋の在庫でこのタイトルを時たま見かけることもあるが、ほとんど『少女ブック』の付録。
当時読者だった女の子たちは今、70歳代か。この年代の方々の多くは真珠に対する印象をこの漫画で培い、憧れと親しみを抱き続けているのかも知れず。
(2020年11月25日)
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